あとから考えると、マスク先生はきっと標準治療を勧めていたに過ぎないのだろうと思う。患者をそっちに導くことができないと「できない」医師のレッテルを貼られてしまうから、強引に手術や抗がん剤を勧めるのかも。また、標準治療をちゃんと説明しておかないと過失になるのかもしれない。
医師の世界も大変だとは思うが、でも患者は一律じゃないから。
父はヘビースモーカーで、喫煙者がかかりやすいという扁平上皮がんだった。
私も学生時代に吸い始めたが、10年以上前にやめた。肺がんのリスクが高いことは自覚しており、なるなら父と同じ扁平上皮がんか、やはりたばことの関連の大きい小細胞肺がんと思っていたので、腺がんの告知を受けて、少し意外だった。
腺がんは女性に多く、症状が出にくいと言われる。自分を含めて家族に1人の喫煙者もいないのに、罹患する女性も多いという。ずっとたばこと無縁だった人は、なぜ私がと、やりきれない思いだろう。
うちは子どもの頃から父のたばこの副流煙にずっとさらされてきた。
20代のころ、社会は喫煙者に対してまだ寛容だった。喫煙への間口は広かったが、しかしやめたいと思ったとき、出口は狭かった。
現金なもので、禁煙以来たばこの煙が大の苦手となり、道で吸っている人がいると、大きく迂回して通るほどになった。
ただ、肺がんのリスクは承知していたとはいえ、ちゃんと向き合っていなかったんだと思う。どこか他人事という気持ちがあったのは否めない。
子どもの頃から可愛がってもらった2人の伯母は喫煙者だったが、80過ぎまで元気だった。母(ずっと副流煙を吸わされてきた)も入退院を繰り返しているが、80を超した。
そのため、自分も長生きするものだと漠然と思い込んでいた(脳は自分の都合のいいように考える)。
だから、仕事柄、入院保険(入院したら収入が途絶えてしまうため。以前、実際に入院したとき、大いに役立ちました)には入っているが、がん保険には入っていなかった(特約さえも)。
死ぬなら母と猫を見送ってから、と思っていたのに、もしかしたら自分のほうが早く死んでしまうかもしれない、とは。
そうそう、仕事でスプレー糊を使うことが多かったが、それが一因ということはないだろうか。