8月12日の続き。
C病院の呼吸器内科には10人ほどの医師がおり、外来には大体3人が日替わりで入っている。
O医師はマスク先生より10年ほどキャリアの長い男性の上級医だ。ということで、これより上級先生と記します。
南方系ナースがマスク先生に直接話したとは思えないから、呼吸器内科の看護師か事務の人に話して、それが呼吸器内科の医師にも伝わった。
このクロエという患者はマスク先生の言うことを聞かないので、別の医師に担当させよう。じゃあ、その曜日の外来をしている上級先生にするか(あるいは、自分が引き受けてもいいですよ、と上級先生が手を挙げたか)、というところでしょうか。
私、いつの間にかモンスターペイシェント(問題患者)になってる?
10分ほど待って、上級先生の外来へ。40くらいでフランクな話し方をする医師だ。カルテを見ながら、
「やはり手術を勧めますね。90歳なら勧めないけど、まだ若いので(肺がんの世界では50代は若造だ)、手術が一番いい」
「手術は怖いし、痛いから受けたくありません」
「胸腔鏡下手術だから、開胸手術ほど大変じゃないよ」
「手術じゃなくて、放射線治療を受けたいんですが」
「でも手術が一番確かだよ」
ベストな治療法を勧めているのに、何でそこまで手術を嫌がるのか。腑に落ちないなーという表情。
「どうして放射線治療がいいの」
「近藤誠の本を読んでるんですが、今の状態で転移がないということは、がんもどきじゃないかと思って」
すると、上級先生はとたんに不愉快そうな表情になり、
「あんなの信じない」
とバッサリ。近藤誠の名前を出すだけで怒り出す医師がいると聞いていたので、おっかなびっくりだったが、やっぱり。
「転移してるかもしれないよ。1センチ以下の腫瘍は検査では見つからない。手術でリンパ節を取って検査すれば、転移しているか分かる」
「手術すれば、転移しないんですか?」
「いや、15%は再発する」
ネットで事前に調べたところ、手術も放射線治療も治療成績は同程度だとあった。ただ定位放射線治療は腫瘍にピンポイントで当てるため、リンパ節に転移していても治療できない。
どちらを選ぶか。
リンパ節に転移していたら、ほかの臓器にすでに転移していると思った方がいい。それなら今、リンパ節を切ったら切られ損ではないか。
放射線治療? 6週間通えるの?
手術に合意しない私に、上級先生は別の方向から攻めてきた。
「放射線治療って6週間かかるよ。通えるの?」
これにはちょっとびっくりした。
放射線治療は臓器や病期などによって線量と回数が変わる。私のようなリンパ節転移のないステージ1の肺がんは、リニアック(直線加速器)という放射線治療装置を使った体幹部定位放射線治療という治療を受けられるはずだ。
強めの放射線を4回とか6回とかに分けて当てるので短期間で終了する。低めの放射線を何十回と分けて当てる通常照射ではないはず。
確かにピンポイントで照射する技術がなかった頃は、ステージ1でも月曜から金曜まで週に5日、6週間通院して、計30回(これより多い場合も少ない場合もある)受けることもあったようだが、定位放射線治療はすでに保険適用となって10年以上経っている。
C病院の放射線科では定位放射線治療をやっているとホームページに書いてあるのに。
なぜ患者をミスリードするような発言をするのか。上級先生は、放射線治療の現状を知らないのか(まさか)。知っていて私を丸め込もうとしているのか(としか、思えない)。しかしそんな疑問を呈しても、再び怒りを買いそうだったので、
「うちからここまで近いから通えます」
とレベルの低い抵抗を試みたら、今度は、
「それなら陽子線治療は?」
とたたみかけてくる。
C病院では陽子線治療は行っていないから(というか愛知県内には名古屋陽子線治療センターの1か所しかない。全国でも15か所だけ)、そこに紹介するということか。
陽子線治療は自由診療の扱いで保険が利かないから300万弱かかる。しかし、今はリニアックの精度が上がって、放射線治療と陽子線治療の治療成績は変わらないという。しかもリニアックによる放射線治療は健康保険が適用されるから、陽子線治療の10分の1以下の費用ですむ。
陽子線治療を受けるメリットが見当たらない。だから陽子線治療は最初から選択肢には入れていなかった。でも、こんなこと言っても、きっと嫌な顔をされるはず。
「高くて無理ですよ」
とお手上げのポーズを取ると、上級先生はこれ以上説得しても無駄だと思ったのか、放射線科を受診する手続きを始めてくれた。
院内で別の診療科へ紹介するのを、コンサルテーションというらしい。