猫との約束

19歳のメス猫が26日午後に永眠しました。

10年より長く生かしてやる

19年前の秋のお彼岸の深夜、窓の外から仔猫の鳴き声が聞こえた。階下の住人の誰かが飼っている猫かと思ったが、その声は切羽詰まっていて、私には「お腹空いた! 死にたくない!」と叫んでいるように聞こえた。悲鳴のようだった。

「捨て猫だ」

バスタオルを持ってエレベーターで1階へ下り、付近を探すと隣のビルの外に出されたごみ袋の後ろに仔猫を見つけた。暴れると怖いのでバスタオルでくるみ、部屋へ。

片手に乗るほどの大きさ、バサバサの黒っぽい毛、まるでホコリのかたまりのよう。尻尾は短く、前足に力がない。確かめると両手が短い。

飼い主がもらい手のないのに困って捨てたか、母猫がこの子は長く生きられないと置き去りにしたか。

水を与えると、皿に歯を立ててむさぼるように飲んだ。よほどお腹が空いていたのだろう。でも仔猫用のフードはないので水だけを与えて(それでも安心したように寝入った)、朝一番で動物病院へ連れて行った。

老獣医師からは、「生後1カ月ぐらい。奇形ですね。前足が悪いと大変ですよ。前じゃなくて後ろ足が悪いとよかったのに」

老看護師からは、「10年は生かしてやりたいわね」と言われた。

もしかしたら動物病院で引き取ってくれるかもと淡い期待を抱いていたが、到底無理だと悟った。ここで決意した。

「よーし、10年以上生かしてやろうじゃないの!」

死ぬまで面倒みる

それから2倍近い19年の月日が流れた。

前足の肉球が小さく歪んでいるので、フローリングの上は滑って歩けなかった。爪の出し入れもコントロールできず、爪が抜けなくなるのを防ぐためカーペットはループ状になっていないものを選んだ。市販のトイレは縁が高く、短い前足では乗り越えられなかったので、ホームセンターで材料を見つくろって自作した。

前足にハンディはあったものの、子どもの頃はやんちゃで、よく遊んだ。不格好ながら走ることもできた。人に抱かれるのが嫌いで、一緒に寝てくれなかった。普通の猫のように高いところから飛び降りても、細く曲がった前足では着地できないため、落とされるのが怖かったのだと思う。

生後1カ月の飢餓体験は強烈だったようで、よく食べた。最初はスレンダーで後ろ足で立ったりできたのに、だんだん太ってくると、自らの体重に耐えられないのか、あまり動かなくなってきた。食事制限を試みたが、うまくいかなかった。

引っ越して、新しく連れて行った動物病院の獣医師に肥満を指摘され、「黒い鏡餅みたいで」と言うと、「うまい」と笑われた。

ソファや(私の)ベッドに付けたペット用の階段にも上がらなくなった。老いと平行して、行動範囲が狭くなり、猫ベッド、トイレ、食事スペース、日向ぼっこ用の窓際の2メートル四方が生活圏になった。

でも、元気だった。大きな病気はしたことがなかった。「死ぬまで面倒みてやるからね」とよく声をかけたが、それはまだまだずっと先のことだと思っていた。

穏やかな死

「死にたくない!」

世界の理不尽さに怒りを突きつけるような叫び声。生を渇望する純粋な欲求。それが私を呼び寄せ、結果、19年以上も生きながらえることができた。

生命力のある猫だったと思う。

人は一滴の水も取らなくなると7〜10日ほどで息を引き取るそうだが(自然死、老衰死)、この子はだんだんと食を断ち、飲む水を減らし、最後は丸々3日間飲まずに生き続けた。ずっと横になって、うとうとと寝ているようだった。口の中が乾いて不快ではないのかと口を湿らせてやろうとすると、顔を背けて嫌がった。

苦しくはないかと不安だったが、中村仁一著「大往生したけりゃ医療とかかわるな」(幻冬舎新書)に、「飢餓」は脳内にモルヒネ様物質が分泌され、「脱水」は意識レベルが下がるため、「死に際は、何らの医療措置も行わなければ、夢うつつの気持ちのいい、穏やかな状態になる」とあって、心を落ち着かせた。

本当にそうだった。

呼吸が止まったあと、固く絞った熱いタオルで顔と身体を拭いてやり、別の乾いたタオルを敷いた箱に横たえると、いつものように丸まって寝ているようにしか見えなかった。とても穏やかな顔で、おなかが上下していないのが不思議だった。

「寒くない?」

毎晩ブラッシングしていたしっとりした毛をなでてやる。このままいつまでも手元に置いておきたかった。

二つの約束

2年前、肺がんになって近藤誠セカンドオピニオン外来をネットで予約したとき、アンケートの中に「希望すること、大事なこと、いきがい」という項目があった。私はいくつかの願いの一つにこう書いた。

「母と猫より長生きしたい(看取りたいから)」

10年以上生かしてやること、死ぬまで面倒をみてやること(猫より長生きすること)。猫との二つの約束が果たせたことは、まずはよかったと思っている。

(写真は昨年9月の愛猫)

2017年12月26日(火曜)

〇体重 49.0 〇BMI 18.6 〇体脂肪率 25.3

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

雑煮(餅2個、チンゲンサイ、小松菜、ちくわ)、シメジとちりめんのアヒージョ(マジックソルト、ニンニクオイル)、炒め物(玉ネギ、ブロッコリー、魚肉ソーセージ、卵)

■お八つ

飴、コーヒー

■夕飯

そば(乾麺80グラム。干しシイタケ、ネギ、ちくわ、天かす)、根菜の煮物(ゴボウ、レンコン、人参、コンニャク、ちくわ、昆布)、アボカドと金時豆(セロリの葉)

2017年12月27日(水曜)

〇体重 48.3 〇BMI 18.3 〇体脂肪率 25.3

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

バゲット2切れ(ブルーベリージャム)、ブロッコリーと金時豆、ポタージュスープ

■お八つ

コーヒー

■夕飯

カレーライス(ご飯100グラム、なすとトマトのレトルトカレー)、根菜の煮物(ゴボウ、レンコン、人参、コンニャク、ちくわ、昆布)、納豆(卵、セロリの葉)

※疲れて何も作る気が起きず。包丁も火も使わず、電子レンジでこさえました。

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コメント

  1. ピキピキ より:

    こんばんは。猫ちゃんの最期とクロエサトさんの見事な看取りのご様子に、泣いてしまいました。お二人の静かで穏やかな生活が眼に浮かぶようです。お写真、キレイな猫ちゃんでしたね。幸せなお顔です。きっとまたいつか逢えます。

    • クロエサト より:

      ありがとうございます。父が死んだときは全然泣けなかったのに、猫の死には涙が止まりません。あんまり鼻をかむので、鼻の下が荒れてしまいました(苦笑)。

      >キレイな猫ちゃん

      そんなこと言われたことがないので、喜んでいると思います。何しろ黒くてデブのため、たまに「熊子」などと呼んでいたもので(笑)。
      今ごろどこにいるのかなと考えては、ついホロリとしてしまいます。

  2. tonton より:

    そうですか、猫ちゃん、逝ってしまったのですね…

    >いつものように丸まって寝ているようにしか見えなかった。

    とても幸せな最期ですね。でもこれを読んで私も泣いてしまいました。
    「黒い鏡餅」ちゃん(笑)、クロエさんに出会えて本当に幸せだったと思います。
    私もトンちゃんより絶対長生きしなくては。
    いっぱい泣いて、クロエさんが早く元気になられることを祈っています。

    • クロエサト より:

      ありがとうございます。
      私も猫に出会えて、最後まで面倒をみることができて、本当に幸せでした。
      まだまだ不意に涙腺がゆるんでしまうことがありますが、今しばらく悼んでやりたいと思っています。
      (鼻をかみすぎて、とうとう鼻の下に水ぶくれができてしまいました。死んだあとも飼い主を悩ませるなんて、困った猫です)。
      それでは、トンちゃんともども良いお年をお迎えください。