過去の夢、未来の夢
DVDで「メッセージ」(2016年、アメリカ映画)を見ました。
日本では昨年5月に公開されたとき、映画ポスターの宇宙船の形がお菓子のばかうけに似ているということで一時話題になったSF作品。
異星人(ヘプタポッド)の言葉を解するため狩り出された女性言語学者ルイーズ。彼女は夫と離婚し一人娘を育てていたが、娘が10代半ばで病死するという夢を繰り返し見ている。
ルイーズは苦労の末、異星人の言語を解き明かす。異星人にとって時間は流れるものではなく、過去、現在、未来は同時にあるもので、未来に何が起きるかすでに分かっている。彼らは3000年後に人類に助けられることになっているため、現在の地球を救うためにやって来たのだ。
ルイーズが見た娘の夢は、実は彼女がこれから辿る未来だった。異星人の言葉を知るうちにルイーズも未来を見る能力を得たのだった。
ダイオウイカ型エイリアン
異星人(知的生命体)との交流の難解さという点では、タルコフスキーの「惑星ソラリス」やル・グィンの「闇の左手」を思わせる。意思疎通のための言葉(文字)はもちろん、時間の観念や性、繁殖の方法など、人類が当たり前としていることと全く異なる世界があるとしたら。人類は宇宙的にはまだまだ後進国(星)だと思わされます。
異星人の造形はイカのよう。それも巨大で直立しているためダイオウイカのようで、触手の先がバッと開くとヒトデのような形になり、そこから墨のようなものを噴射する。一筆書きの円のような墨の形が異星人の文字であるという発想はユニーク。
日本のコミックの影響?
でもこのイメージ、以前見たことがある。
萩尾望都の漫画「海のアリア」(角川書店)で、惑星ナイト・メアで集団発生する赤いヒトデのようなジョング。地球にやってきた宇宙人アリアド(ヒト型で美形。人の死を予知する能力を持つ)は、ナイト・メアでこのジョング(巨大でヘプタポッドの手に似ている)に襲われて瀕死の重傷を負う。アリアドが乗って来た宇宙船も、ばかうけのような形の宇宙船に似ていた。
単なる偶然? アメリカの映画監督って結構日本のコミックに影響を受けている人がいるというから(「マトリックス」のウォシャウスキー兄弟とか「キル・ビル」のクエンティン・タランティーノとか)、この映画でもその可能性があるかもしれません。
未来が分かることの功罪
そして、未来を知りながら生きるということ。これは重い。あとからずっしり来ました。
自分より早く死ぬことが分かっている子供を産み育てるというのは、精神的に耐えられるものだろうか。絶望を生きるということではないか。
その時々が楽しく満たされていればいいと自分を納得させるのか。そんな刹那的な毎日を平常心で生き続けられるだろうか。
人は致死率100%。でも人は普段、死について考えないようにして精神の安定を保っている。
「明日世界が終わるとしても、私は今日リンゴの木を植えるだろう」とはルターの言葉だが、絶望の渕にあっても希望を失わないでいれば、状況は変わるのだろうか。そう希望を持っていいのだろうか。
ルイーズは、もしかしたら娘の死は避けられるのではないかという希望を抱き、宗教に走ったりするかもしれない。
考えてみるまでもなく、犬猫は人間より寿命が短い。自分より早く死ぬと分かっていて飼い始めるのだけど、飼っている最中はそのことを忘れている。それなのに死なれてみると心底悲しい。
まして、それが自分より長生きするはずの子供だったら。子供は自分の遺伝子を未来へとつないでゆく希望のともしびだ。それが必ず絶たれることが分かっているとしたら。それでも運命を甘受して生きていくのか。
いつかは死ぬが、その日を知りたくない
そういえば葉室麟の「蜩ノ記」の主人公は10年後に切腹することを命じられていた。原作を読んでいないし、映画も見ていないけど、毎日が死へのカウントダウンというのはどんな心持ちだろう。
ただ「蜩ノ記」の主人公は自分の行く末を理解しているが、「メッセージ」の子供は自分が死ぬ運命にあることを知らない。ルイーズは誰とも悲しみを共有できないまま残される(夫はとうに逃げている)。こちらのほうが辛くないだろうか。
以前、がんは死病とされた。患者はそれを精神的に受け止めきれないだろうとして、1990年くらいまで患者に病名が告知されることはまれだった。
徳の高い高僧でさえ、がん告知の衝撃で自ら命を絶ったほどなので、いわんや凡人をや(特に女性)、という理由で告知しなかったというのはよく耳にした話。実際はそんなこと全然なかったわけですが。
人は誰だって死ぬ。でもその日がいつかを知りたいとは思わない、ということかしら。
いやいや、もしかしたらルイーズは娘が死んだあと、別の(素晴らしい)未来が訪れることを知っていたから、娘の死を耐えることができたのかもしれない(イヤな見方ですが)。
などなど、映画を見てからいろんなことを考えさせられ、いろんなインスピレーションを与えてもらった。
ほかにもカンガルーの語源とかノンゼロサムゲームとかいろんなキーワードが散りばめられていて、その言葉を丹念に辿っていくと、ものすごく奥深い世界へと連れて行かれそう。
私にとって「メッセージ」は、もはやSF作品と一口では括れない映画です。
2018年2月21日(水曜)
〇体重 50.4 〇BMI 19.1 〇体脂肪率 26.8
※今年一番重い!
■朝
豆乳、野菜ジュース
■お昼
ニラと卵の雑炊(雑穀入りご飯100グラム)、根菜の煮物(ゴボウ、タケノコ、人参、コンニャク、ちくわ、昆布)、おろし納豆(ネギ)、セロリと大豆(甘味噌)、梅干し
■お八つ
ココア。お好み焼き(昨夜の夕飯の残り)
■夕飯
雑穀入りご飯(100グラム)、白湯スープ鍋(サツマイモ、シメジ、豆腐半丁、小松菜、ちくわ)、カマスのスパイス焼き(ピーマン)、梅干し、海苔
コメント
同じ映画を見ても、人それぞれ随分感想が違うものですね。私は恥ずかしながら、何でもあまり深く考えないところがあります。(人はそれをバカとも言います(;^_^)
>未来を知りながら生きるということ。これは重い。
私はこの肝心の部分を見落としていたらしくあまり考えなかったのですが、クロエさんの記事を読んで、改めてなぜ彼女は未来を知りながらジェレミー・レナー演じる数学者と結婚したのか?
例えば妊娠初期の染色体検査で異常があると知ったら、大半の人が中絶すると聞きました。そのくらい不幸を避けようとするのが普通の人だとしたら、彼女は特殊な人なのか?
それとも、ヘプタポッドの見せた夢で出会った夫や娘を深く愛してしまい、短い時間でも一緒にいたいと願ったのか?
原作は読んでいませんが、タイトルを「あなたの人生の物語」というのですね。
これは見た(読んだ)人があなただったらどの選択をするか?と問うているのでしょうか?
>萩尾望都の漫画「海のアリア」
これは1、2巻目しか読んだ覚えがありませんが、随分長く続いていたのですね。
そんなに似ているとは!?それ絶対、影響受けてますよ(笑)
>人類は宇宙的にはまだまだ後進国(星)だと思わされます
「闇の左手」、ル・グィン、最近亡くなられましたね。
以前読んでSF苦手な私にはすごく歯ごたえのある読書でした。先日の読書欄でル・グィンが紹介されてましたが、確かにその惑星(両性具有の宇宙人)ではセクハラは理解不能な概念で、彼女の女性としての苦労から生まれたのかもしれませんね。
>同じ映画を見ても、人それぞれ随分感想が違うものですね。
ホントに違いますねー。
tontonさんがこの映画について、ブログで時制のことを書かれていましたが、私は見ているとき、あんまりピンと来なかったんですよ。
でも今思うと、言葉に時制がないことで人の思考も変わってくるのかもしれない。
映画では、開戦の決定権を持つ中国のシャン上将が、ルイーズからの電話で戦争を回避することにしたけど、誰も知らないはずの自分(上将)の電話番号と妻のダイイングメッセージをルイーズに教えたのは、未来の自分だった。
日本人ならそんなバカなと思ってしまいますが、時制のない中国だと意外とすんなり受け止められる話なのか、などと考えてしまいました(シャン上将が大物だけなのかもしれませんが)。
(映画の中で、ルイーズはサピア=ウォーフの仮説として「思考は話す言語で形成される」と話しています)
>原作は読んでいませんが、タイトルを「あなたの人生の物語」というのですね。
短編集の中の一作品だそうです。娘の死因が映画とは異なるそうで、読んでみたくなりますね。
>先日の読書欄でル・グィンが紹介されてましたが、
新聞に載っていたのでしょうか。宮崎吾朗がアニメ化した「ゲド戦記」には怒っていたという話、私も映画を見てあんまりだと思ったので、ホントに申し訳ない気がしていました。宮崎駿に撮り直してほしいくらい(笑)。