久坂部羊作品、昨日に続いて2冊紹介します。
「虚栄」〜4つのがん治療グループ
「虚栄」は「悪医」より劇画チックな医療サスペンス。
がん撲滅を目指し、国は「プロジェクトG4」を発足。G4は4つのがん治療法(手術、抗がん剤、放射線治療、免疫療法)のことで、それぞれの治療に長けた4大学が協力することになった(手術は外科グループ、抗がん剤は内科グループ、それに放射線科グループ、免疫療法科グループ)。
巨大な予算が付くこともあり、それぞれのグループは主導権を握ろうとやっきになり、見栄を張り、足を引っ張り合う。
そして大学病院の医師たちの上下関係のすさまじさ。医局トップの教授を煙たく思う医師、部下をつぶそうとする医師。「白い巨塔」以来の伝統的な(?)医局が描かれます。
医師も多様。自分の名前を売るために、患者に無理な手術を勧めてミスをし、死亡させて医療訴訟を起こされる医師。思ったように研究が進まないため、不正な論文を発表してしまう医師。もちろん良心的な医師も出てくるけど、主人公を含めて少数です。
7人ががんを発症
という具合で登場人物が多いため、それぞれの性格や立ち位置、派閥が、1、2章で簡潔かつ興味をそそるように説明される。
そしてあっと驚く第3章。登場人物が次々にがんに罹患するのです。その数、7人。
いくら国民の2人に1人ががんになるとはいえ、そんな短期間でと、いささかご都合主義的な気もするけど、がん医療に関わる人間(医療関係者、マスコミ関係者)が、自分ががんになったらどんな治療を選択するか、というのがこの本のもう一つのテーマ。突っ込みを入れる間もなく、ぐいぐい引き込まれます。
罹患するのはG4それぞれのグループの医師のほか、近藤誠をモデルにした放射線科医(がんもどきならぬ真がん・偽がん説を提唱)や、鳥越俊太郎がモデルの豪快なジャーナリストも。
がん種は肺がん、大腸がん、食道がん、白血病、肝臓がん、胃がん。ステージはいろいろ、転移もあったりなかったりと、がんの見本市のよう。
自分の専門領域の治療ではなく敵対するグループの治療をこっそり受ける医師や、白血病が骨髄移植して治ったのに、直後に交通事故で命を落とす医師もいて、死への恐怖は人間の本性を浮かび上がらせるとともに、人間何が起こるか分からないことを思い知らせてくれます。
がん医療の現場
医師たちはその間にも謀略を巡らし、スキャンダルを仕立てて敵対グループをおとしいれ、裏で駆け引きし、不正を暴き、暴かれ、転落していく。いやー、医療、がんに関するあらゆる要素がてんこ盛りで飽きません。
登場人物の名前を、グループごとに四神とその色、方角(青龍、朱雀、白虎、玄武。東西南北)で象徴的に描き分けたりと、遊び心もたっぷり。読み応えのあるエンタテインメント作品でした。
これが現在の日本のがん医療の現場、現実だとは思わないけど、人間は権力欲、名誉欲が強いもの。覇権争いの前に患者は置き去り、という可能性があることを、患者自身、気に留めておいたほうがいいかもしれません。
「老乱」〜一人暮らしの義父が認知症に
「老乱」は、肉親の認知症と介護問題を扱った小説。40代の夫婦(息子と娘あり)の妻が、少し離れたところに住む78歳の義父の異変に気付く。義父は妻を肺がんで亡くし、一軒家で一人暮らしをしていたが、徐々に言動がおかしくなっていく。
夫は父親の異常を認めたがらないが、父親がコンロで火事を起こしそうになったり、車をぶつけたり、果ては行方不明になって警察に捜索願を出すに至り、ようやく問題と向き合わざるを得なくなる。
義父は自分ではちゃんとしているつもりが、周囲がそれを認めず病気だと決めつけると被害妄想に陥る。
この義父が日記を付けているのだが、だんだんと漢字を忘れ、文法がおかしくなり、次第に意味をなさなくなっていく。その情けなさ、不安。義父の心の揺れに、認知症患者当事者はこんな辛さを感じているのだということを教えられる。
認知症患者の鉄道事故
本は全30章から構成されているが、章の頭に認知症や介護関連の新聞記事が引いてある。
第1章の引用記事は、認知症患者が鉄道事故を起こし、家族が損害賠償を求められた一件。
2007年、愛知県大府市で91歳の認知症男性がJRの線路に入り、電車にはねられた。JR東海は介護疲れで寝ていた老妻と横浜に住む長男らへ列車の遅れなどに対する損害賠償を求め、名古屋地裁は支払いを命じたというものだ。
認知症の家族は365日24時間、患者を見ていられない。患者が事故を起こしたとき、家族は責任をどこまで負うべきかが、当時かなりマスコミに取り上げられた。
その後どうなったからと思っていたら、一昨日(21日)の中日新聞に、この事件をまとめた「認知症鉄道事故裁判」(ブックマン社)が出版されたとの記事が。患者の長男で著者の高井隆一さんのコメントが載っていた。
一審で支払いを命じられた遺族は控訴したが、二審も敗訴。しかし最高裁で逆転勝訴し、賠償請求が棄却される。裁判は6年にわたって続いたそうで、高井さんは現在、自分の体験を全国で講演しているという。
寝たきり天国
閑話休題。
「老乱」を読み進めると、認知症患者の介護はする側も受ける側もこんなに大変なのかと言葉を失う。認知症患者は自分や家を守るため、暴言を吐き、暴力を振るう(本では義父は包丁を振り回す)。本人の中では言動が一貫しているが、介護する側にとっては修羅場そのもの、たまらないだろう。
有料老人ホームの談話室での、女の見舞客たちの話に打ちのめされる。舅が深夜に徘徊したり大声を出すので世話が大変だったが、脳梗塞で倒れてくれて楽になったとか、逆に寝たきりの姑にケアマネが訪問リハビリを入れたら、姑が立ち上がれるようになって介護の手間が増えたため、腹を立てて訪問リハビリをクビにしたとか。
介護の世界には「寝たきり天国」という言葉があるそうだ(もちろん介護する側の都合)。世も末という気がするが、介護をしたことのない私が何か言っても差し出がましいだけですね。
介護費用をどう捻出するか
本には、義父に車の運転をやめさせるにはどうしたらいいか、認知症患者にはどう接すればいいのか、という実際に役に立ちそうな情報も多い。
また、介護にはお金がかかる。小説の夫婦は義父の一軒家を売って、その費用を工面しようとするが、義父が亡き妻との思い出の詰まった家の売却を許すはずもなく、売るまでも悶着があって苦労する。
とはいえ、預貯金や不動産があるのは恵まれている。だから義父は最後まで手厚い介護を受けることができた。結構きれいな終わり方で読者は救われるのだが、そうしなければ認知症、介護の世界は陰陰滅滅で救いがたい状況と受け取られるのを、著者は恐れ、回避しようとしたのかもしれない。
2018年4月23日(月曜)
〇体重 50.7 〇BMI 19.2 〇体脂肪率 27%.4
■朝
豆乳、野菜ジュース
■お昼
うどん(乾麺80グラム。干しシイタケ、ワカメ、ネギ、かまぼこ)、エリンギとシメジとちりめんのアヒージョ(ニンニクオイル)、キムチ納豆(オクラ)、ほうれん草のおひたし(削り節)
■お八つ
コーヒー、飴
■夕飯
雑穀入りご飯(100グラム)、味噌汁(カボチャ、玉ネギ、人参、卵)、アジのカレーソテー(ピーマン、シメジ)、根菜の煮物(ゴボウ、レンコン、人参、コンニャク、練り物、昆布)、梅干し、海苔
コメント
「虚栄」は面白そう(と言っていいのか?)ですが、「老乱」はしんどいかも?
でも他人事じゃないので、読んでみます。
我が家の両親は共に介護2ですが、家事炊事さえやってあげればあとは自分でできるのですが、先月末から親の家の老犬が完全寝たきりで、15〜6キロの中型犬のため、シーツを換えたりするたび抱き上げてたら腰が痛くなってしまい、これを親でできるか?と考えたら、絶対ムリ!と思いました。でも犬に関しては親の家の番犬で可愛がってもいなかったのですが、世話してるうちに可愛くなってきたのが救いです。
昨日のコメントで、久坂部羊原作ドラマのおかげで上手な手術をしてもらえ、後遺症がないとのクロエさんの指摘になるほど!(ポン!)と気づきました。久坂部羊氏にファンレター送ろうかしら?(笑)
tontonさん、いつも長いブログを読んで下さってありがとうございます。
「老乱」は介護真っ只中の人にとっては心情的にしんどいかもしれませんね。でも介護に使えそうな情報もあるので、私自身は文庫になったら買ってもいいかなと思っています。
ご両親のところのワンちゃん、心配ですね。でもtontonさんに世話をしてもらえてきっと喜んでいるはず。
腰はお大事に。というか去年のようなアクシデント(入院)がありませんように。
tontonさんが倒れたら、周囲の皆さんが困られると思うので。