久坂部羊「糾弾」─医療ミスと医療事故調査制度

以前紹介した医師で作家の久坂部羊作品が面白かったので、また図書館で借りてきました。

(→「久坂部羊「悪医」─医師と患者の埋まらない溝」「久坂部羊「虚栄」「老乱」─がん、認知症、介護問題」)

「糾弾─まず石を投げよ」(朝日文庫。単行本の初版は2008年)は医療ミスがテーマの医療ミステリー。

名医の誉れ高い消化器外科医、三木が、胃がんの女性の手術後、敗血症を見落とし死亡させてしまった。医師本人にしか分からないミスだったが、三木は遺族に謝罪し、個人的に1400万円もの賠償金を支払う。

主人公の女性医療ライターは、三木がわざわざ医療ミスを認めたことに違和感を抱き、取材を始める。

医師が誤診を疑われたら

一方、テレビ番組制作会社で医療分野を得意とするやり手女性プロデューサーが特番を作ることになった。

ある人間ドック専門のクリニックには他病院から多数の医師がアルバイトに来ているが、クリニックの看護師長(番組とグル)がその医師たち(10人)に、「先生が半年前に異常なしと診断した患者が、別の病院で胃がんと診断された。患者はレントゲン写真を借りたいと言っている」と言ってクリニックに呼び出し、番組が用意したニセ写真(よくよく見れば、がんが写っている)を見せる。

医師たちが誤診に気付いたときの反応を何台もの隠しカメラで追うという実験番組だ(主人公も外科医の三木もこの番組制作に否応なく巻き込まれていく)。

現実にはこんな非人道的な企画(究極のどっきりカメラと言えそう)が通るとは思えないけど、その実、医師たちがどう反応するのか、興味深かった。

レントゲン写真を貸し出したら自分が誤診したのが表沙汰になる。それだけは阻止しなければならないと、写真を貸さないでくれと看護師長に懇願する医師、狼狽のあまり逆ギレする医師、看護師長を煙に巻き問題をうやむやにしてしまう医師、あっさりと非を認める医師など、対応は十人十色。保身に走る医師ばかりではないことにホッとさせられるけど、少数です。

医療ミスの原因は患者が嫌いだから?

外科医の三木が主人公に言う言葉が怖い。患者の敗血症を見落としたのは、患者を嫌っていたからだと言うのだ。

「どうして医療ミスが起こるのか。(略)それは医師の嫌悪です。医療ミスは、医師が患者を嫌っているときにより高率に起こります。もちろんわざとじゃない。しかし、医師は嫌いな患者に向き合うとき、無意識に反感を抱き、集中力を低下させてしまう。深層心理がそうさせるのです。だから致命的なミスが起きるんです」

患者を嫌っているとミスを犯しやすいなんて統計があるのかどうか分からないけど、人に対する好悪の念が行動を変えるのは、自分を省みてもよくあること。医療現場だけが違うとは言い切れないわけで、変な説得力があって恐ろしい。

この作家は医師の本音をフィクションという手法を使って浮き彫りにしているのかもしれません。

医療事故調査制度

3年前(2015年10月)、医療事故調査制度が施行された。

概要は、「医療事故が発生した医療機関において院内調査を行い、その調査報告を民間の第三者機関(医療事故調査・支援センター)が収集・分析することで再発防止につなげるための医療事故に係る調査の仕組み等を、医療法に位置づけ、医療の安全を確保するものです。」(厚生労働省HPより)

医療事故の報告件数は2007年が約1400件だったのが、2017年には4000件を超えたそうだ(→日本医療機能評価機構「医療事故情報収集等事業 第52回報告書」)。

10年で3倍近く増加。これは医療事故が増えたというより、医療事故に対する認識が世間で高まり、報告件数が増えたためだという。つまり以前は表沙汰にならない医療事故がごまんと起きていたけど、ミスの隠蔽も数多く行われていたということなんでしょうか。

事故の調査は院内で

そんな医療事故を減らすため、医療事故調査制度が導入されたわけですが、「医療事故かどうかを決めるのは医療機関。調査は外部の中立的機関ではなく院内で行う。報告書は患者には渡されないこともある」と、最初から患者寄りの制度じゃないと言われていた。

調査には人も時間もかかるだろうし、医師生命、医療機関の存続を脅かしかねない制度に、医師と医療機関がどれくらい協力するんだろう。施行から2年半経ってどれくらい機能しているんだろう。

こちらを管轄しているのは、日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター)というところで、「医療事故調査制度の現況報告」を見ると、全国から毎月30件程度、医療事故発生の報告が上がってきているそうだ。この数字が実際に起きた医療事故の数と比して多いのか少ないのかよく分からない。

名古屋だと名大の附属病院が「こんな医療事故がありました。こんな調査をしました」とたまに記者会見しているのがニュースになるが、ほかの医療機関の報告って見た記憶がない。名大病院では医療の質・安全管理部という専門部署が対応に当たっているそうで、組織が大きくないと医療事故調査にはなかなか対応できないということなのかしら。

そして、医療事故調査制度が10年前にあったら、おそらく外科医の三木も調査対象になったはずで、どんな結果が出たのだろうと、ふと考えたのでありました。

2018年5月6日(日曜)

〇体重 50.5 〇BMI 19.1 〇体脂肪率 27.5

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

チャンポン(玉ネギ、人参、キャベツ、小松菜、シメジ、チクワ、厚揚げ、イカ)、ゴボウと人参のきんぴら(ごま)、セロリとパプリカの甘酢和え

■お八つ

コーヒー

■夕飯

雑穀入りご飯(100グラム)、味噌汁(ワカメ、サツマイモ、ナス)、塩ザケ、盛り合わせ(ゴボウと人参のきんぴら、大根とコンニャクとチクワの煮物)、納豆(卵、ネギ)

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コメント

  1. tonton より:

    これはかなり怖い話です。
    普段、近所のお医者さんには「はい」と「ありがとうございました」位しか口を開かない私ですが、ガンと聞いてどこかスイッチが入ってしまい、かなり攻撃モードになっていましたから。
    他にもがんセンターの最初の先生に、3年前からの健診時の胸部レントゲン写真をもらってくるように言われ、ちょうど毎年違う病院で受けていたので3ヶ所にもらいに行ったのですが、ずいぶん異なる対応をされました。1つ目は無料で優しい言葉もかけてくれ、2つ目は事務的にCD-ROM代を請求されたのみ。3つ目が上と相談してからとか、後から何か訴えないよう念書を書かされ、やたら高いCDROM代を請求。結局人それぞれなんですね。

    • クロエサト より:

      レントゲン写真の貸し出しって、病院によってそんなに差があるんですね。びっくりしました。
      一つ目の病院は、改めて確認したけど腫瘍は見つからなかったので、安心して貸し出せたとか。
      三つ目は、それまでに患者かほかの医療機関から、がんの見落としを指摘されて、もめたことがあるのかも。と、いろいろ想像してしまいました。素人はレントゲンを読めないのにノークレームの念書を書かせるって、ひどいと思いますが。
      ホントに医療機関ってそれぞれですね。