井伏鱒二「厄除け詩集」
妖怪アマビエの代わりというわけではありませんが、井伏鱒二の「厄除け詩集」(講談社文芸文庫)を出してきました。
「疫病が流行したとき私の姿を人々に見せなさい」というアマビエの予言のように、井伏鱒二が「疫病がはやったらこれを読みなさい」と言ったわけではもちろんなく、「散文を書いてもつまらないような気持ちになる。これは私の散文が厄に逢うことなので、厄除けのつもりで詩を書いてみた」というような理由で書名に取ったそうだ。
「厄除け詩集」は4部構成になっており、3部は井伏の自作だが、1部は漢詩の「訳詩」で、この訳詩の中の一編がつとに知られている。唐の時代の詩人、宇武陵(うぶりょう)の「勧酒(酒を勧(すす)む)」です。
「勧酒」
コノサカヅキヲ受ケテクレ
ドウゾナミナミツガシテオクレ
ハナニアラシノタトエモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
勧君金屈卮
満酌不須辞
花発多風雨
人生足別離
自由奔放な訳詩
詩集の中の「訳詩」17編がすごいのは、元の五言絶句を忠実に訳しているものはほとんどなく、井伏鱒二が自由闊達に訳しているところ。元の詩には地名なんて出てこないのに、舞台を日本に移して、お江戸とか御嶽山とか飛騨の山とかなんていう言葉がさらりと出てくる。
白眉は「人生は別離がいやになるほどたくさんある」を「サヨナラ」ダケガ人生ダ」とした潔さ。素晴らしい名訳、さすが大作家、と思っていたが、実は「訳詩」の大部分は、江戸時代に訳されて庶民が口ずさんでいたものらしい。その訳したものを井伏が見つけ、手を入れて発表したというのだ。
でも以前からあった「勧酒」の訳詩は出来が良くなかったため、井伏本人が新たに訳したそうですが。
「人生は左様ならだけね」(林芙美子)
そして最後の「「サヨナラ」ダケガ人生ダ」は、世話になった人が亡くなったので、「放浪記」の林芙美子と一緒に弔問へ行った帰り、林芙美子が「人生は左様ならだけね」と芝居がかって泣き伏したのを記憶していて、「勧酒」を訳すときに使ったそうだ。
高島俊男著「お言葉ですが…7『漢字語源の筋ちがい』」(文春文庫)に詳しく紹介されています。
とはいえ、「勧酒」の訳の素晴らしさが減じるものではない。いつか「コノサカヅキヲ受ケテクレ……」は、よく一緒に飲んだ友人が遠いところへ旅立つ前、最後の酒席で使ってみたい言葉だと思っているが、幸いその機会はまだ訪れていない。
斬新な詩に絶句
それにしても「厄除け詩集」の井伏の詩って、これが詩? と戸惑うものが多い。
流れてくるなだれの上に熊があぐらをかいて座っていたとか、煙管のやにを口の中に突っ込まれた蛙が、口から胃を出して田圃の水で洗ったとか(シュール!)、電車で顎の外れた人を見て笑いが止まらないとか、知人がどぶに落ちて笑いが止まらないとか(ひどくない?)、駅のプラットフォームに妻子と一晩ごろ寝をしたらノミがすごくいるので駅長に苦情の手紙を書いてやるとか。
斬新というか、(私のイメージする狭い)詩という枠にまるで収まらないというか。「「サヨナラ」ダケガ人生ダ」のような心に突き刺さって二度と抜けないような鮮やかな名句名言を期待していたので、いささか拍子抜けしてしまったのかもしれません。
2020年5月6日(水曜)
〇体重 51.6 〇BMI 19.5 〇体脂肪率 28.6
■朝
豆乳、野菜ジュース
■お昼
ラーメン(手作りメンマ、ネギ、かまぼこ、ゆで卵)、高野豆腐(キュウリ)、ゴボウと人参のきんぴら(いりごま)、甘夏
ゆがいたタケノコからメンマを作った話はまた今度
■お八つ
コーヒー、飴
■夕飯
ニラ雑炊(雑穀入りご飯100グラム、ニラ、卵。梅干し)、炒めもの(タマネギ、人参、ブロッコリー、エリンギ、竹輪)、キュウリとワカメの酢の物(針ショウガ)
今日の午後は天気が崩れて、ずっと臥せっておりました。雨に落雷、最高気温も20.1度と、昨日より10度近く低かった。急激な変化に体が付いていかず、夜は体調が悪いときの定番、ニラ玉雑炊をばいただきました