奇声を発する人

「ホビット」第3部

数年前の正月、一人で映画を見に行った。

作品は「ホビット 決戦のゆくえ」。「指輪物語」ファンの私は「ロード・オブ・ザ・リング」3部作はもちろん、「ホビット」の第1部、第2部も劇場で見ており、シリーズ最終章を飾るこの作品をずっと以前から心待ちにしていた。

映画館の座席は、早めに予約したおかげで最後列の真ん中(小さな劇場なので、鑑賞するにはベストポジション)。ここでビルボ・バギンズの冒険を心ゆくまで堪能するつもりだった。

隣に座ったのは、私と同年配の小柄な女性。他の座席はカップルが多く、一人で来るというのは(私のように)よほど指輪物語が好きなのだろうと、ひそかにシンパシーを感じた。しかし彼女に一瞬でも好意を抱いたことを、じきに後悔することになった。

隣の女性の奇声に混乱

館内が暗くなり、上映中の注意事項、予告編が流れはじめると、

「ヒッ!」

突然の奇声。スクリーンからではなく、隣の女性が発している。新作映画の予告に反応しているのか、その後も「キャッ!」「ヒャッ!」「フッ!」。短い、破裂音のような奇声を断続的に上げる。

(なんだろ。具合が悪いのかな。声掛けたほうがいいのかな)

横目で彼女を盗み見ると、体調が悪そうには見えない。むしろ楽しげにスクリーンを見ている。

(病気かな。本編が始まったら静かになるのかな)

いよいよ「ホビット」最終章が始まる。しかし彼女の奇声は断続的に続いた。静かな間が続いたかと思うと、いきなり「ヒャッ!」。タイミングが分からず、混乱する。

周囲の人も気が散って映画に集中できないのだろう。チラチラと視線をよこしてくる。しかし彼女ではなく、彼女と私、両方を見ている。

(ああ、そうか。私か彼女かどっちが声を出しているのか分からないんだ。暗いから)

それから気付く。

(私は彼女の連れだと思われてるかも。年齢も近いし。友だちなんだからやめさせてよ、と思われてるのかも)

誰も何も言っていないけど、周囲からひしひしと無言の圧力を感じる。

映画に集中できない

(注意したほうがいいのかな。でも彼女が怒り出したらどうする? 興奮して叫んだり、いや、殴られたりしたらどうしよう。非常口ってどこだっけ)

(座席、変われないかな。全席指定だから無理? 満席みたいだったし。いっそ外に出て係りの人に注意してもらう?)

こんな考えが頭の中をぐるぐる回っているものだから、目はスクリーンを見ていても、話がどんな展開になっているのか全然分からない。

(気にするだけ損。映画に集中しよう)と気を取り直すが、そのとたん、「ハッ!」「キャッ!」。隣でやられると、一気に現実に引き戻される。

(この人、いつも1人で外出してるんだろうか。家族とか付いてないんだろうか。いつも映画館でこんなこと言って、他の人は注意したりしないんだろうか)

静かにしてもらえませんか

(みんな同じ料金払ってるのに、なんで私だけがこんな目に遭うの?)

だんだん状況の理不尽さに腹が立ってくる。

(前から楽しみにしていた映画なのに、ひどくない? 最後までずっとこのまま?)

我慢の限界だった。意を決して、隣にささやいた。

「あの、静かにしてもらえませんか」

彼女からは何の反応もなかった。しかし、それから映画が終わるまで、二度と奇声が発せられることはなかった。私はといえば、

(怒ってるんだろうか。映画が終わってから何かされるかもしれない)

と、最後までビクビクして、全く映画は楽しめなかった。彼女はエンドロールの途中で席を立ち、外で待ち伏せされたらどうしようという心配(そのときは本気で思っていた)も杞憂に終わった。

ただ、私は疲弊しきってしまい、これ以来、映画館へは足を踏み入れていない。

2時間「見て見ぬふり」は難しい

このことを思い出したのは、昨日、ネットで「注意で「攻撃対象」に…電車での独り言、障害ある人が望む対応とは?」という記事を見つけたから。

記事を読むと、どうも映画館の女性は自閉症スペクトラム障害(ASD)のような気がする。奇声を発することで、自分を落ち着かせていたのではないか。それなのに、他人(私)から注意をされて、ショックのあまり黙り込んでしまったのではないか(彼女のほうこそ、私が怖かったかも)。

病気なら仕方ない。下手に注意して申し訳なかった、と今なら思う。でも実際問題として、私はあの場でどうすれば良かったのか。記事にあるように、「見て見ぬふり」をすれば良かったのか。でも、それは逃げ場がある場合に限られるのではないか。

映画館で2時間も「見て見ぬふり」しなきゃならないなんて、一体どんな苦行なの?

バスツアーで独り言を言い続ける男性

先日出かけたハイキングのバスツアーでも、ずっと野球の中継(らしきもの)をしている30歳くらいの男性がいた(彼は1人で参加)。このときのバスも座席指定で、私は通路をはさんで彼の斜め後ろの席だったが、行きも帰りも彼の独り言を延々と聞かされることになった。

こういう人とは、道ですれ違ったり、電車などで見かけたりしたときは距離を置けばすむけど、指定席で満員の映画館、電車、バスなどの場合、逃げ場がない。どうすればいいのか。

一般の人は、「しょうがないよね」と最後まで耐えるのだろうか。世間にはそういう寛容な人のほうが多いのだろうか。

私自身、音(突発的な大声など)が苦手なため、彼女の奇声を聞かされ続け、頭が変になりそうだった。以前から過剰なにおいにも耐えられないし、だんだんと外に出ることが嫌になってしまいます。

※4月8日追記。もしかしたら女性はチック障害(チック症)だったかも。本人の意思とは関係なく、繰り返し体が動いたり声が出たりする病気だそうです。動きや声を自分でコントロールできないのは大変でしょう。

2019年4月5日(金曜)

〇体重 51.7 〇BMI 19.6 〇体脂肪率 28.2

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

焼きそば(タマネギ、ニンジン、小松菜、モヤシ、厚揚げ)、茶碗蒸し(シイタケ、アスパラガス、かまぼこ)、サラダ(ブロッコリー、ラディッシュ、ブドウ。岩塩、黒胡椒、オリーブオイル)

※茶碗蒸し、盛大にすが立ってしまった。

■お八つ

コーヒー、飴

■夕飯

雑穀入りご飯100グラム、あさりの味噌汁(ネギ)、サバのスパイス焼き(ピーマン)、レンコンの煮物(コンニャク、昆布、丸天、ちくわ)、キムチ納豆(ネギ)

2019年4月6日(土曜)

〇体重 51.1 〇BMI 19.4 〇体脂肪率 28.1

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

イカスミのボンゴレスパゲティ(乾麺70グラム。ニンニクオイル、アサリ)、サラダ(レタス、タマネギ、ニンジン、ブロッコリー、紅絞り豆、ちりめん、トマト、アボカド、カマンベールチーズ、オリーブ。岩塩、黒胡椒、オリーブオイル、バルサミコ酢)

※イカスミのパスタソース(レトルト)の賞味期限が切れていたので、急きょ登場。アサリと合わせるのは初めてでしたが、割といけます(見た目はともかく)。

■夕飯

雑穀入りご飯100グラム、味噌汁(ワカメ、マイタケ、油揚げ、ネギ)、天ぷら(なす、シイタケ、アスパラガス。ブロッコリー)、ゴボウとニンジンのきんぴら(白ごま)、ブドウ

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コメント

  1. tonton より:

    楽しみにしていた映画でそんなことが!!それに懲りて、映画館に行かなくなったなんて!映画好きの私としては、クロエさんに同情すると共に、その女性に腹を立てましたが、クロエさんの記事を読んだ後、リンクのネット記事に飛んでびっくり。世の中にはなんていろんな病気があるんでしょう……
    でもこの記事を読んで別の感想を持ちました。
    昔なら「もう変な人が隣にいて最悪!」で終わってた事が、「そうか、そういう病気があるんだ」と知識を得て、全然自分のとは種類の違う病気ですが、「大変なんだな」と思えただけでも、何やかや言って、ネットって大したもんだなと。

    >「しょうがないよね」と最後まで耐えるのだろうか。世間にはそういう寛容な人のほうが多いのだろうか。

    どうなんでしょうか?私だったらどうするか…考えましたが、ほんとに分かりません。(映画館のケースでは)多分混んでてもどこかしら席を見つけて移動するか、それも無理な時は、係員に事情を言って、もう一回無料で見せろ、とか言いそう(オバさん全開でお恥ずかしい…)

    とはいえクロエさんにとっては災難だったことには違いなく、でも願わくば、これに懲りずお出かけなさってください。

    • クロエサト より:

      >何やかや言って、ネットって大したもんだなと。

      おお、確かにそうですね。病気の当事者の声ってこれまでなかなか知る機会がなかったので、「そういうことだったのか」と分かるようになったのはいいですよね。
      ただ、「分かってほしい」「察してほしい」という当事者の気持ちは分かるけど、そのときの状況やこちらの気持ちに余裕がないと「分かる」のは難しい。ということも「分かってほしい」と思うのです。

      >係員に事情を言って、もう一回無料で見せろ

      これ、私もそのとき考えました(笑)。でも出入り口が前方だったため、劇場から出るまでが大変そう。お正月でどの回も満員の可能性がある。等々考えて、結局席を立ちませんでした。
      で、そんなことばっかり考えていたので、肝心のストーリーは頭に入らず(涙)。
      でもtontonさんの映画評を見ていると、映画はやっぱり大きなスクリーンで見たいなと思うので、今度観客の少なそうな作品(映画館)にトライしてみます(いつでも座席を変われるように)。

  2. tonton より:

    ずっとこの記事のことが頭を離れません。
    私は映画好きなので、映画館でこういう人が隣に居合わせたらどうしよう?というのもあります。
    で考えたんですが、例えば、
    ①声を出にくくするマウスピースのようなものを医療関係者に開発してもらって、映画館やコンサートで装着する
    ②「自分は意思に反して奇声を発してしまい迷惑をかけるかもしれない」旨、紙に書いたものを隣り合わせた人に見せ、隣の人に心の準備をしてもらう。

    ②を見せられた場合、おそらく私だと「私は映画に集中したいので。教えてくれてありがとう」と言って移動すると思います。
    でもどちらも病気で奇声を発する人側からの解決法なんで、結局こちら側の解決法にはならないのですが…
    それぞれが抱えている事情をオープンにすることで共存できればいいと思うのですが、現実には難しいのかもしれません。

    • クロエサト より:

      現実には難しいですよね。だからヘルプマーク(周囲に配慮を必要としていることを知らせる)ができたと思うのですが、あれだけ見せられても、どんな配慮をすればいいのか分かりません。
      自分だっていつどんな病を得るかもしれないと思えば(まあ、すでにがんですけど)、人様の病気や障害とも共存していける社会が理想なんでしょうけどね。

      映画館のスタッフはきっといろんなクレームを受けていると思うので、そういうときどんな対応しているのか、ちょっと知りたいところです。
      隣の人が太っていて、こちらと共通の肘掛けを占領するとか、足を広げてぐいぐい押してくるとか、お菓子をばりばり食べてうるさいとか、くさいとか、いびきをかくとか、いろいろありそうです。
      なんかクレームを列挙してると、ますます映画館に行きたくなくなります(失笑)。