久坂部羊「いつか、あなたも」─在宅医療の現場

一昨日に続いて久坂部羊作品の紹介です。

「いつか、あなたも」は、在宅医療がテーマの連作短編集。

「芥川症」の中の短編「バナナ粥」(「芋粥」がベース)に、在宅医療専門の「あすなろクリニック」の医師が出てくる。「いつか、あなたも」は、そのあすなろクリニックの看護師を語り手として、クリニックの医師や看護師、スタッフ、彼らが在宅医療に訪れる患者や家族の姿を描き出す。

「綿をつめる」と「おくりびと」

久坂部はもともと外科医だったが、30代始めに外務省の医務官として海外の日本大使館を歴任。帰国後、2001年から14年まで、在宅医療のクリニックで老人医療に携わったという。

この本はクリニックでの実話をもとにしているそうで、細部まで非常にリアリティがあります。

たとえば「綿をつめる」。患者が自宅で亡くなったあと、死後処理がどう行われるかが事細かに描かれる。

患者につながれていたカテーテルや点滴などを抜いたあと、湯灌へ。胃液を出してから口に綿を詰めるが、綿は脱脂綿ではなく水をはじく生綿で、身体の部位によって綿の詰め方は異なり、それぞれのやり方が具体的に説明される。

映画の「おくりびと」(2008年、滝田洋二郎監督)の湯灌は、遺族の前で形式的に行うものだったが、小説では家族に席を外してもらい、看護師と医師だけで行う。普通は一般の人の目に触れることがないため、こんなふうに処置されていたのかと、生々しい描写に引き込まれた。

ベテランの看護師の、綿をきついぐらいに詰めるのは、葬式のときに便や血が出たら患者さんが気の毒だからという言葉には、看護師の矜持を見る思いがした。

それぞれの現場〜個性的な患者と家族

本は6編で構成され、6人の患者が出てくる。

すい臓がんの62歳女性、アルツハイマー病の70歳女性、多発性骨髄腫(骨髄のがん)で余命3カ月の67歳男性、卵巣がんの72歳女性、統合失調症(人格障害?)の26歳女性、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の58歳女性。

並べて気付いたが、女性患者が多い。患者が男性の場合は女性(妻など)が面倒をみるが、女性が患者の場合、男性(夫)では手に負えないだろうと、病院の医師やケアマネージャーが在宅医療医を紹介するのかもしれません。

読み進めていくと、在宅医療は患者だけでなくその家族とも密に付き合っていくことになる分、対応にも苦労が多そうだと思わされる。

がんの妻に次々と代替療法を試す夫

たとえば、具合が良くならない妻のために、自己判断で薬や健康食品を買い込み、妻に次々試させる夫。あるいは医師不信、病院不信で、寝たきりの妻の面倒をろくすっぽみず、虐待に近い扱いをしていたのに、徐々に介護にやりがいを見出すようになる夫。

夫自身が末期がんのケースでは、本人が自分の病気を知りたくないと告知を拒み、あまつさえ自分は治ると信じているため、家族や医師たちが対応に苦慮する。

以上、年配の男性は概してクセが強そうです。

女性はというと、タイトルにもなっている「いつか、あなたも」の26歳女性が強烈。ヒステリー性の発作、引きこもり、急に甘える、妄想、幻聴などさまざまな症状があり、病名が付かない。本人も辛いかもしれないが、突拍子もない言動に振り回される家族もしんどいだろうと思います。

セデーション(鎮静)と安楽死

私は3年前、ある肺がん患者さんのブログでセデーション(鎮静)という言葉を初めて知った。

セデーションは、がんが進行して治療手段が尽き、耐えがたい痛みに苦しむ患者に鎮静剤(睡眠薬や麻薬)を投与して意識レベルを下げ、深く眠らせたまま死を迎えさせるというもの。

初めて意味を知ったとき、日本で安楽死が行われてるの? 安楽死とか尊厳死って犯罪じゃないの? とびっくりしたが、安楽死とセデーションは違うようです。

セデーションは終末期の苦痛緩和が目的で、その先に死がある。安楽死は死(死ぬこと、死なせること)が目的で、そのために筋弛緩剤や塩化カリウムなどを使う(私の理解です)。

安楽死ももともとは苦痛緩和のためだったためか線引きは曖昧のようで、この本でもセデーションの意味で安楽死という言葉が使われていることがある。緩和ケアの現場でははっきりと区別されることなく、両方使われているのかもしれません。

三叉神経痛の痛み

私は三叉神経痛にかかったとき、顔をアイスピックでめった刺しにされているようで、「この痛みから逃れられるなら、首を切り落としてほしい」と願ったほどだった。薬で何とか収まったが、あの苦痛がずっと続いたら正常でいられたかどうか自信が持てない。おそらくおかしくなっていただろうと思う(幻聴を聞いた)。

そのため、がんの終末期に耐えがたい苦痛に襲われ、どんな薬を使っても痛みをコントロールできなくなったら、セデーションは患者にとってのむしろ希望、最終的な救済になるだろうと思っていた。

「セカンド・ベスト」

しかし短編集の最後に収められた「セカンド・ベスト」を読んで、本当に救済となるのか、疑問に思ったのでした。

聡明な女性がALSとなり、自宅で寝たきりに。だるさと苦痛を和らげるため持続皮下注射でモルヒネを注入するが、痛みは治まらない。

女性から「もう、あかん。地獄の苦しみや。頼むから、安楽死させて」と頼まれた医師は、セカンド・ベストとして、「安楽死はさせないけど、苦しみは取ってあげるのさ。ヘビーセデーションで」とスタッフに話し、モルヒネに多量の鎮痛剤を加える。この処置は奏功し、女性は正月の3日間、鎮痛剤なしで夫と穏やかに過ごすことができる。

だが女性の痛みはぶり返す。医師と看護師は正月のような穏やかな時間が戻るかもしれないという親切心から、女性を延命させる。このあたりは素人にはよく分からないが、中途半端な量の薬を使ったということか。しかし最後はデパスを20ミリグラム(通常は最大3ミリグラム)、モルヒネを250ミリグラムに増やしても鎮静できなかったとあるので、耐性が付いたということでしょうか。

真の「ベスト」はどこに?

結局、女性は凄まじい痛みを強いられ続けた末、3カ月後に絶命する。看護師は正月のあとに安楽死させてあげるべきだったと後悔するが、あとの祭りだ。

患者としてはゾッとするところだ。セデーションですぐに死ねるか苦痛が長引くかは、医師のさじ加減一つということではないか。

最近は、終末期医療の現場でセデーションが安易に行われているという話を見聞きする。これからは自宅で死を迎える人が増えるとされ、在宅医療も増加するはず。セデーションも増えるはずで、それぞれの家でどのように行われているのか、これから問題になっていくかもしれない。

※久坂部作品について、これまでに書いた記事です。

久坂部羊「悪医」─医師と患者の埋まらない溝

久坂部羊「虚栄」「老乱」─がん、認知症、介護問題

久坂部羊「糾弾」─医療ミスと医療事故調査制度

久坂部羊「芥川症」─肺がんになった医師の選択

2018年7月5日(木曜)

〇体重 50.5 〇BMI 19.1 〇体脂肪率 27.1

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

うどん(乾麺80グラム。干しシイタケ、ワカメ、ネギ、カニカマ)、シイタケとエリンギとちりめんのアヒージョ(ニンニクオイル)、マヨネーズ和え(ブロッコリー、山芋、パプリカ)

※この日の最高気温は25.6度。うどんに湯気が立っています。雨続きだと、やっぱり冷えますね。

※山芋にマヨネーズはビミョー。今度は甘酢和えにします。

■お八つ

コーヒー、飴。カンパーニュのチーズトースト、ジャム。紅茶

■夕飯

雑穀入りご飯(100グラム)、味噌汁(ナス、ミョウガ、油揚げ)、ピカタ(タラ、ピーマン、シメジ、厚揚げ)、根菜の煮物(ゴボウ、人参、タケノコ、コンニャク、さつま揚げ、昆布)、梅干し、海苔

2018年7月6日(金曜)

〇体重 50.6 〇BMI 19.2 〇体脂肪率 26.6

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

カレーうどん(乾麺80グラム。タマネギ、人参、シメジ、ネギ、カニカマ)、シメジとちりめんのアヒージョ(ニンニクオイル)、ブロッコリーとパプリカの甘酢和え

■お八つ

コーヒー、飴、クラッカー

■夕飯

キムチ炒飯(雑穀入りご飯100グラム。ネギ、イカ、厚揚げ、卵)、ニラと卵の吸い物、根菜の煮物(ゴボウ、人参、タケノコ、コンニャク、さつま揚げ、昆布)、オクラとカニカマの甘酢和え

※夜に晴れそうだったので、夕方に洗濯。テーブルクロスも洗いました。乾燥機を持ってないので、雨が続くと難儀するのです。

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コメント

  1. tonton より:

    久坂部羊、続々と読んでますね。
    私も今「無痛」を読んでます。これは結構、怖くて気持ち悪いです。
    しかしこの本もある意味、怖そうですね。

    一昨日の「芥川症」の方で、
    >近藤誠医師のがん放置療法に賛同しているのだろうか、
    とありますが、それは「虚栄」を読んだときも思いました。
    そして今読んでいる「無痛」でも、主人公の患者の症状や予後が見える医師の考え方がやはりそうなのです。
    著者の医師としての到達点がそうなんでしょうかね?

    • クロエサト より:

      tontonさんのブログで久坂部羊を知って、面白さにはまっております。感謝です(ペコリ)。
      「無痛」も読みたいのですが、図書館には続編の「第五番」しかありません。久坂部作品は人気が高いようで、いつも2〜3冊しか並んでいないので、気長に読み進めます(待てなくなったら購入するかも)。

      ほかに「破裂」と「嗤う名医」も読みましたが、久坂部羊、シリアスからコメディタッチの作品まで幅が広い。一体いくつ引き出しがあるんだ! と驚かされます。

      >著者の医師としての到達点がそうなんでしょうかね?

      医師は濃厚な医療に限界を感じると、放置療法という対極に振れていくのかもしれませんね。
      そのあたり、近藤誠と久坂部羊はどう考えているのか。二人の対談を聞いてみたくありませんか?

  2. tonton より:

    またまたこんばんは。
    西日本は大雨で大変なことになってますね。こちら千葉では今夜、震度4(場所によっては5弱)の地震があり慌てました。日本て、なんて天災の多い国なんでしょう。

    >二人の対談を聞いてみたくありませんか?

    本当に!ぜひ聞いて見たいですね。
    近藤氏も本をたくさん出しているので出版社が企画したらいいのにね。近藤氏の説は患者としてはどこか無責任のように思えてしまうのですが、経験豊富な医師からみると、結局余計なことをしないのがベターという結論になってしまうのかもしれませんね。

    • クロエサト より:

      昨夜の地震、tontonさんのところ大丈夫だろうかと気になっていました。大事がなかったようで本当によかったです。
      日本の天災、年々ひどくなっている気がします。異常気象と聞いても「またか」ぐらいにしか思わなくなってしまいました。

      >経験豊富な医師からみると、結局余計なことをしないのがベター

      そういう意見、結構見聞きしますが、実行するのは難しそうですね。日本の医療制度は「余計なこと」をしないと収入にならないため、痛し痒しなんだと思います。