久坂部羊「悪医」─医師と患者の埋まらない溝

このブログにコメントをくださるtontonさんがご自分のブログで紹介されていた「悪医」が面白そうだったので、図書館で借りてきました。

著者の久坂部羊は現役の医師であり多くの医療小説を書いている作家。初めて見る名前だと思っていたら、2作目の「破裂」をドラマ化した番組を見ていた(2015年10〜11月。NHK)。心臓病の新しい治療法と隠された副作用、超高齢社会と安楽死問題などを推理仕立てで描いた医療ドラマ。深刻なテーマだけど、俳優たちの演技がオーバーでちょっとコミカル、意外な展開で楽しめたので、その著者ならばと期待は高まる。

同じ著者でほかに2冊借りてきています。

「悪医」(朝日新聞出版)/「虚栄」(角川書店)/「老乱」(朝日新聞出版)

「悪医」と「虚栄」はがん、「老乱」は認知症と介護問題を扱っている。

かみ合わない思い

「悪医」は東京のがん拠点病院で、3カ月の余命宣告を受けた患者と、その宣告をした医師の思い、行動が交互に綴られる。

35歳の外科医(森川)は、もうこれ以上治療の余地はない、副作用で命を縮めるより残された時間を有意義に過ごしてほしいと患者のためを思って話し、52歳の胃がん患者(小仲)は、死ぬよりましだと思って辛い抗がん剤にも耐えてきたのに、治療法がないというのは死ねと言われたのも同然と激高、診察室を飛び出してしまう。

森川は患者思いのいいお医者さんなのだけど、患者の気持ちまで想像が及ばない。直情型の小仲も自分のことしか見えていないから、森川の思いやりが届かない。

患者と医師の意識のずれ

末期がんに対する医師と患者の意識の差はこんなに違うのかというエピソードが、繰り返し繰り返し出てくる。それは医師と患者が得られる情報量の差によるものか、医師のエリート意識に起因するのか。

医局の控え室での医師たちの会話にあぜんとする。

医師たちは、一縷の望みをかけて先進治療を受けたいと願う末期の患者を冷笑し、命が縮まってもかまわないから治療を受けたいとすがる患者を困りもの扱いする。

あらゆる業種の従業員たちがバックヤードで交わす、気に入らない顧客をこきおろす言葉と何ら代わらない。つまり身内同士のストレス解消。

医師は患者の痛みや死が日常的でありふれたものになって、心が麻痺してくるのかもしれない。相手が血の通った人間だと思っていたら、神経がまいってしまうから。

そのため絶対外に出してはいけない言葉でもスタッフ同士なら口に出すことができる。実際こういう会話が現実に交わされていても不思議ではないと思う。

抗がん剤の延命効果

抗がん剤についての医師と患者の意識の食い違いも埋めがたい。

「さらに森川が疑問に思うのは、抗がん剤ではがんは治らないという事実を、ほとんどの医師が口にしないことだ。(略)医師が目指すのは、がんの縮小や腫瘍マーカーの低下、すなわち延命効果でしかない。がんを治すことなどはじめから考えていないのだ。/しかし、大半の患者は、抗がん剤はがんを治すための治療だと思っているだろう。治らないとわかって薬をのむ人はいない。この誤解を放置しているのは、ある種の詐欺ではないか。」

以前、医師自身が4期のがんと診断されたら、どんな治療法を選ぶかという記事について紹介したが、抗がん剤を選ぶ医師は少数だった。それに通じる医師の本音だと思う。(→「医師ががんになったらどんな治療を選ぶか」)

抗がん剤で劇的に改善する患者もいると聞くがごく少数で、それに賭けて失敗するよりは、ということなのだろうと思う。

カモにされるがん難民

小仲はがん難民として転院を繰り返すのだが、末期のがん患者はこういうふうにカモになるのかというのが分かる。わらにもすがりたい患者は、金儲け優先の医師の優しい笑顔、巧みな言葉にだまされ、体力を失い、耐えがたい痛みにのたうちまわり、持ち金を使い果たしていく。

たとえば、抗がん剤専門病院の医師は自分の研究を優先させたいため、小仲が副作用で死ぬほど苦しんでいるのに薬を投与し続けようとする。このままでは死んでしまうと見かねた看護師からアドバイスされ、小仲が治療の継続を断ると、医師は手のひらを返したように小仲を冷淡に扱うようになり、退院へと追い込む。

大げさに描写してあるが、この手の話はよく聞くし、今もどこかでこういうことが起きていても不思議じゃないと思わせるリアリティがある。

医師の徒労感

一方の外科医、森川の困惑、徒労感も分かる。

長年の経験から、これ以上治療をしても無駄だと丁寧に説明しても、患者(小仲とは別)は納得せず、「自分と同じ症状の患者が治ったと新聞に載っていた」「最初に使って効かなかった抗がん剤も、今なら効くかもしれない」「自分は運がいいから治療をしてくれ」などと、すごんでくる(ほとんど恫喝)。

患者にとっては自分の命がかかっているから必死になるのは当たり前とはいえ、その命をさらに縮めることになるから治療はやめるべきだと説得しなければならなかったら、医師は虚脱感に見舞われるはず。

次々に送られてくる患者に同じような説明を何度も何度も繰り返し、よかれと思って言ったことを受け入れてもらえなかったら、それは嫌になるだろう。

医師の常識は患者の非常識。その逆も然り。

それぞれの立場の考え方に頷いたり、疑問に思ったり、受け入れられなかったり。いろいろと思うことの多い小説だった。

※「久坂部羊「虚栄」「老乱」─がん、認知症、介護問題」」に続きます。

2018年4月22日(日曜)

〇体重 51.3 〇BMI 19.4 〇体脂肪率 27.4

今年最高体重更新。どこまでいくのか。

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

そば(乾麺80グラム。ネギ、かまぼこ)、焼きもの(カボチャ、なす、オクラ、エリンギ、厚揚げ。甘味噌)、じゃこおろし

■お八つ

コーヒー、エビせんべい

■夕飯

雑穀入りご飯(100グラム)、ニラ玉の吸い物、アジのカレーソテー(ピーマン、シメジ)、根菜の煮物(ゴボウ、レンコン、人参、コンニャク、練り物、昆布)、梅干し、海苔

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コメント

  1. tonton より:

    「破裂」もこの作家だったんですね。このドラマはちょうど肺がんがわかってがんセンターに通っている時に見ていたんです。ドラマの中で「医者は3人殺して一人前」というセリフがあり、ひょえ〜と怯えて、初めて外科医と会った時にいきなり「新人の練習台はことわる!」と言って先生を怒らせてしまったドラマです(笑)
    私も医局の控え室の会話には唖然としました。私もおとなしい患者じゃなかったから話題にされてたかもしれません。クロエさんもきっと話題になってたと思いますよ(笑)
    「虚栄」と「老乱」は他人事じゃないので、私も読んでみようかしら。

    • クロエサト より:

      tontonさんに、「私も「悪医」の感想書きます〜」とコメントしてから時間が経ってしまいました。
      久坂部羊、ちょっとはしゃぎすぎなところもあるけど面白いです。今のところ外れなしです。

      >「新人の練習台はことわる!」

      (笑)。ドラマの「破裂」を見ていたからこそ言えた言葉。そのおかげで術後に痛みもなく順調に経過されているのでは。そういう意味では久坂部羊に感謝ですよね。

      >医局の控え室の会話
      そうか。自分自身が俎上に載せられていたかもとは考えてもいませんでした。私も最初のC病院でモンスターペイシェント扱いされていたので、きっといろいろ言われていたんでしょうねー。

      「虚栄」と「老乱」は今日、感想を書きます。tontonさんに是非お勧めです。