里見清一「見送ル」─がんセンター医師の半自伝

「見送ル ある臨床医の告白」

里見清一著「見送ル ある臨床医の告白」(新潮社。2013年)を読みました。

里見医師は肺がん専門の呼吸器内科医。国立がん研究センター中央病院などを経て、現在は日本赤十字社医療センター化学療法科部長を務める。

「偽善の医療」や「医学の勝利が国家を滅ぼす」(共に新潮新書)などの著作があるが、「見送ル」は医師を主人公にした初の小説。といっても主人公の名前は里見清一で、病院名は築地癌センターなどと変えてあるけど、ほとんど自分の体験をもとにした内容だと思う。

喘息持ちの子ども時代から、医師になって勤めた幾つかの病院でのエピソード。新書とも重なる内容が多い。患者に「あなたはがんです」だと病名を告げなかった時代、いち早く「がん」の告知を始めた話や、患者から勧められた缶コーヒーをどうして飲まなかったのかずっと後悔したという話が出てくる。

そして、フィクションの形を取っているからか、自分や病院に関して下世話な話も多い。医師の給料、婚約破棄、女性患者への恋愛感情、患者に思い入れするあまり病院スタッフの前で何度も涙を流したことなどなど(人情家で、こんな医師に診てもらいたいという気になります)。

肺がん患者ばっかり

第2話以降はがんセンター呼吸器内科が舞台なので、当たり前だけどたくさんの肺がん患者とがん専門の医療スタッフが登場する。医師同士のやりとり(内科医同士だけじゃなく、とにかく切りたがる外科医との攻防戦とかも)、対患者とのやりとりなど、病院の裏側が透けて見えて興味深い。

対患者でいえば、患者に新薬の臨床試験を受けてもらうための手練手管。治療法が尽きた患者に転院してもらうための口八丁手八丁。これらは患者の信頼を得ないと受け入れてもらえないとして、里見医師はこういう根回しをし、こういうふうに話すのだと具体例を挙げる(すごい説得力があります。ああ、患者はこうやって丸め込まれるのねと納得)。

ただ、がんセンターの元医師として、こんなこと書いていいのかという話が随所に出てくる。

「俺は、患者が、化学療法なんてしたくない、抗癌剤なんて嫌だ、というのであれば、一言も反論せずその意向を尊重する。肺癌の化学療法の効果なんて、全体としてみれば知れたものであるのは明らかだからだ。(略)現在の標準治療だって、副作用も強いし効果ははっきりしないし、命に関わるリスクだってあるし、普通に考えれば試験やられているのと大して変わらない。」

くじ引き臨床試験

「癌センターでの治療は、原則すべて臨床試験で行う、というのが大方針である。つまり、エラソーに言えば、他の病院と同じ治療をしていても仕方がなく、より良い治療のためにデータ取りをかねて新規治療に取り組むのである。」

そのために、新治療と標準治療の効果を比べるのだが、患者はどちらかを選べず、ランダム化比較試験(くじ引き試験)となる。

「だからみんな、これに限らず、ランダム化で治療を決める臨床試験では患者から同意をとるのに苦労している。」とあるが、最近は自ら臨床試験を望む患者が多くなったと見聞きする。

肺がんは分子標的薬、免疫療法など次々に新薬、治療法が出てくるので、患者の選択肢が増えているということなんでしょうか。現在のがんセンターは里見医師が在籍していた頃とはずいぶん変わっているかもしれません。

個性的な患者たち

がんセンターにはいろんな患者が紹介されてくる。治療を受けて治る人、治療法がなくなって病院を出される人、亡くなる人。本では、その中でも里見医師にとって印象的な患者が描写される。

18歳なのに、喫煙者が多く罹患する小細胞肺がんになってしまった女子高生。病院幹部の知人で特別待遇を受ける女性芸能人。進行がんで手術不可の50代男性が、臨床試験を受けたら腫瘍が縮小したため手術に踏み切ったところ、再発せず15年経過した、など。

それから、「俺はさあ、癌センターに来た時に、実験材料にされるのは覚悟していたよ」と言う割に、小細胞肺がんの手術後、通常行う術後化学療法をやりたくないと断った50代の男性患者。里見医師は、この患者は再発する可能性が高いと予測するが再発はしなかった(後に別の病気になるけど)。

この男性は新潮社の編集者らしく、2人は意気投合し、以後、里見医師は新潮社の雑誌に書いたり、新書を出すことになる。またこのつながりから、唐沢寿明主演版のテレビドラマ「白い巨塔」(2003年放送)のアドバイザリーを務めることにもなる。

誰のための治療か

個性の強い患者も多いが、とんでもない患者家族もいる。

あるとき里見医師は、別の病院に勤める後輩医師から相談を受ける。後輩が受け持つ肺腺がん末期の60代男性患者はEGFR遺伝子変異が陰性。なのに患者の娘は、このまま座して死を待つのは耐えられない、イレッサを使ってほしいと主張する、どうしたらいいかと。

後輩医師は患者の娘に押し切られイレッサを使うが、もともと効果を見込めるはずもなく、患者は最終的に間質性肺炎で亡くなる。その直前にも、娘は(父を)人工呼吸器につないでほしいと頼んでくる。なぜなら、「このままお父さんが死ぬのを見てるだけだと、私が後から悔いが残りそうで」。

ぞっとします。こんな家族がいたら、苦しみ抜いて死ぬことになりかねない。治療って一体誰のためのものなんでしょう。

タイトルで誤解

この本、タイトルがいまいちピンと来なくて手に取らなかったけど、他の新書と同じく内容が濃くてなるほどというエピソードが満載。もっと早く読んでおけばよかったと思います。「見送ル ある臨床医の告白」なんて、医療ミスを犯した医師の懺悔録かと思っておりました。

※里見医師の日本赤十字社医療センターでの仕事を以前紹介しています(NHKニュースに本名の國頭秀夫で登場)。→「オプジーボの最適な投与期間を探る臨床研究

※2012年1月に出た里見医師の新書を紹介しています。→「里見清一『「人生百年」という不幸』

2019年7月3日(水曜)

〇体重 51.2 〇BMI 19.4 〇体脂肪率 27.9

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

冷やしうどん(乾麺80グラム。干しシイタケ、オクラ、ミョウガ、かまぼこ、おろし生姜)、納豆(卵、ネギ)、ゴボウとニンジンのきんぴら(白ごま)、トウモロコシ1/4本

※今年初の冷たい麺類。この夏もたくさん食べます!

■お八つ

グレープフルーツジュース、トウモロコシ1/4本

■夕飯

マグロの漬け丼(ネギ、ミョウガ)、味噌汁(ワカメ、タマネギ、マイタケ、豆腐)、ネギの卵焼き、煮物(大根、ニンジン、コンニャク、がんもどき、オクラ)

2019年7月4日(木曜)

〇体重 50.7 〇BMI 19.2 〇体脂肪率 27.5

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

冷やしそば(乾麺80グラム。干しシイタケ、オクラ、かまぼこ、海苔、ワサビ)、煮物(大根、ニンジン、コンニャク、がんもどき、オクラ)、納豆(卵、ネギ)、トウモロコシ1/4本

■お八つ

コーヒー、飴。トウモロコシ1/4本。あられ

■夕飯

マグロの漬け丼(ネギ)、くず豆腐(豆腐1/2丁、ネギ、シメジ)、ゴボウとニンジンのきんぴら(白ごま)、サラダ(キュウリ、トマト、金時豆。甘酢)

※最近マイブームのマグロの漬け丼。簡単でおいしくて。

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コメント

  1. tonton より:

    クロエさんの記事を見て、図書館で借りて読んでみました。
    すごく面白かったです。ずいぶん内情バラしちゃってますね(笑)なるほどこうやって患者は治験に誘導されたり、がんセンターを追い出されたりするのか〜と納得。
    里見先生は本当に手八丁口八丁というか、相手の様子を見て会話を展開し、落とし所に誘導するのが上手くて、頭が良すぎてちょっと怖い(笑)
    そしてとことん患者に付き添う。こんな先生に診てもらった患者は幸せだと思います。
    しかし前半の部分で、はっきりと患者をえこひいきすると言っており、若い人には本当にいい先生ですが、年寄りには冷たい!もう年寄りの側にいる人間としては複雑ですが、確かに若い人の命を優先するのがフェアだと思います。

    >「このままお父さんが死ぬのを見てるだけだと、私が後から悔いが残りそうで」

    この後輩医師もこれ聞いて血が逆流したそうですが、確かにゾッとしますね。
    しかしそもそも家族がこんな死生観を持ってしまうのも、今までの(ガン)医療が死を敗北として、無駄な治療をしすぎてきたせいかもしれませんね。

    • クロエサト より:

      >ずいぶん内情バラしちゃってますね

      里見先生、そのせいで病院を移ったのでしょうか。
      ほかの医師からしたら、医師の手の内を患者へ勝手に明かしているとして、煙たがられていたのかも(あくまで想像)。

      >そしてとことん患者に付き添う。こんな先生に診てもらった患者は幸せだと思います。

      これ、本当にそう思いますよね。里見先生のような医師ばかりだったら、患者の満足度はものすごく上がると思います。
      それには、里見先生のクローンを大量に作ってもらう。その場合、年寄りにも優しくなるよう遺伝子操作してもらうことが必要かもしれませんが(笑)。