久坂部羊「芥川症」─肺がんになった医師の選択

医師で作家の久坂部羊作品、図書館で見つけるたびに借りていますが、最近面白かったのがこの2冊。

「芥川症」(新潮社)、「いつか、あなたも」(実業之日本社)、共に2014年発行です。

芥川龍之介の短編が下敷き

「芥川症」は芥川龍之介の短編を医療小説に換骨奪胎した7編の短編集。表紙はドクター姿の芥川。遊んでます。

「藪の中」を下敷きにした「病院の中」は、病院で死んだ父親の死因が、医師、看護師、検査技師など複数の医療者に聞けば聞くほど分からなくなっていく話。「鼻」がベースの「耳」は、美しい形の耳に異常な執着を見せる作家が、整形美女の耳を我が物にするため殺人を犯す話。

「或利口の一生」〜作家志望が医師へ

よく知られた作品を、ナンセンス、パロディ、SF、スプラッター、さらにシニカルにと、初期の筒井康隆を思わせるような自在な味付けで料理してさすがだけど、どこかまとまりがない。と思っていたら、最後の「或阿呆の一生」を下敷きにした「或利口の一生」に至って、全体の構成がくっきりと浮かび上がり、こういう仕掛けかとうなされました。

「或利口の一生」の主人公「彼」は、若い頃は作家志望で、医学部を出たあとは外科医、その後、在宅医療へと移っていく。

「彼」は久坂部羊自身を投影しているようで、高校生の頃に読んだ芥川の短編を、「医療や介護の現場にも通じるテーマが多い」として、「藪の中」や「鼻」「羅生門」「蜘蛛の糸」「地獄変」「芋粥」と、この本で下敷きにした作品を挙げる。

そうか、この本はきっと「彼」が書いたという趣向なのですね。ちょっとメタフィクションっぽい。

がん治療の現場に疲弊して老人医療へ

さて、「彼」は外科、麻酔科の研修を経て外科医となるが、その過程でがん患者が次々と命を落としていく。若い執刀医が功を焦って難手術に挑み患者を死なせたり、外科医が術中、手間のかかる処置が嫌さにインオペ(手術不能)の判断を下してお腹を閉じてしまったり、あるいは知的障害児を一人で育てるシングルマザーや21歳の青年が進行がんであえなく命を奪われたり。

「彼」自身も患者を救いたい一心で積極的に手術や抗がん剤治療を行うが、患者は全員、甲斐なく死去。そんな現実に無力感に覆われ、疲労困憊となった「彼」は、メスを捨て在宅医療医へと転身する。

老人医療を始めて、治療しないことのメリットを実感し、「彼」は今後、健康診断、がん検診、治療は一切行わず、もしがんになっても「がん放置療法」で自然に寿命を迎えたいと願うようになる。

肺がん〜無治療のはずが濃厚な治療を受けることに

しかし勤務先の規定で健康診断を受けた「彼」に肺がんが見つかる。腫瘍は1カ所で2㎝以下。リンパ節転移がなければ5年生存率は80%。知人の呼吸器外科医に相談し、その知人の顔を立てる形で手術を決意。術後に抗がん剤、放射線治療も受けたのに、1年後に肝臓に一カ所転移。

転移したなら助からない、もう治療は受けないと心を固めるが、後輩の外科医に勧められてラジオ波治療を受けることに。5年生存率は38%。

治療して2カ月後に検査すると、肝臓に5個の転移巣が見つかり、「彼」は後悔する。

「よけいな治療をしたから、再発の勢いが強まったのだ。何もしなければ、今ごろはまだ転移巣は一個だけだったかもしれない。」

今度こそ「彼」は濃厚な治療を受けない決心をするが、痛み、だるさ、食欲不振が続き、がん性腹膜炎のため腹水がたまるようになり、抜いてもらうため入院。その後、「彼」は生きて退院することはできなかった。

がん治療の選択

いかにも「ありそう」という筋立てに慄然とする。

患者本人は積極的な治療は受けたくないと思っていても、専門医からの熱心な勧め、家族からの懇願に抗いきれず、主体性をどこかに置き忘れて漫然と治療を受け続けた結果、がんの急激な進行や転移、苦痛を招き、死の床で「こんなはずじゃなかった」と後悔する。

もちろん周囲は悪意があって積極的な治療を勧めたのではない。しかしがんの進行、痛みを引き受けるのは「彼」自身だ。誰も責任を取ることも、身代わりになることもできない。結局、周囲の声にずるずると流された自分のせい、自己責任ということになってしまう。

がん治療の選択は難しい。何の治療も受けないことも難しいし、外野(それが専門家であっても)の声に惑わされないでいることも難しい。

それにしても、作者は近藤誠医師のがん放置療法に賛同しているのだろうか。声を大にして言えないから、こうして小説にしているのでしょうか。

※続きです。

久坂部羊「いつか、あなたも」─在宅医療の現場

※久坂部作品について以前に書いた記事です。

久坂部羊「悪医」─医師と患者の埋まらない溝

久坂部羊「虚栄」「老乱」─がん、認知症、介護問題

久坂部羊「糾弾」─医療ミスと医療事故調査制度

2018年7月3日(火曜)

〇体重 50.4 〇BMI 19.1 〇体脂肪率 27.4

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

冷やし中華(ごまだれ。錦糸卵、キュウリ、カニカマ)、シイタケとちりめんのアヒージョ(ニンニクオイル)、甘酢和え(アボカド、オクラ、パプリカ)

■お八つ

コーヒー、飴

■夕飯

雑穀入りご飯(100グラム)、味噌汁(ワカメ、カボチャ、シメジ、ネギ)、ニンニクの茎炒め(タマネギ、人参、エリンギ、厚揚げ、魚肉ソーセージ)、山芋短冊(卵)、キムチ納豆(ネギ)

2018年7月4日(水曜)

〇体重 50.8 〇BMI 19.2 〇体脂肪率 27.4

■朝

豆乳、野菜ジュース

■お昼

ちゃんぽん(タマネギ、人参、エリンギ、ピーマン、小松菜、カマボコ、厚揚げ、イカ)、キュウリとカニカマの甘酢漬け

■お八つ

コーヒー、飴。カンパーニュのチーズトースト、ジャム。コンソメスープ(インスタント)

■夕飯

雑穀入りご飯(100グラム)、味噌汁(カボチャ、タマネギ、ネギ、卵)、焼きもの(タラ、ナス、シイタケ。ブロッコリー)、根菜の煮物(ゴボウ、人参、タケノコ、コンニャク、さつま揚げ、昆布)

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コメント

  1. 名無し より:

    芥川龍之介は当時のきついゴールデンバットを
    1日180本吸っていたそうです
    もしかしたら自殺しなくてもいずれ・・・

    • クロエサト より:

      180本! 今だと9箱(20本入)。
      確かに高確率の肺がん予備軍ですね。
      芥川が死んだのは35歳なので、15歳から吸い始めたとして喫煙歴20年。
      あと10年生きていたら発症していたかも、ですね。